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2023年06月07日

歯磨きはいつから始まった?知ると面白い100年の歴史!


歯磨きは現在、予防医学の重要な要素として認識され、要介護のリスクを低減し、健康寿命を延ばす可能性があると言われています。
歯磨きの重要性が広く認識され、一般化し定着するまでどのようなプロセスがあったのでしょうか?

【世界の歯磨きの歴史】


《歯の痛みに悩まされ続けている人類》

遥か昔から、人類は歯痛に苦しんできたという事実に驚く人は多いと思います。
現代では歯科医院で治療すれば痛みを解消できますが、昔はそうはいきませんでした。
ヒト(ホモ・サピエンス=現生人類)以前から、虫歯や歯周病による歯痛に悩まされてきたのです。
驚くべきことに、約30万年前のカブエ人の化石人骨からも虫歯が発見されています。
それも奥歯だけでなく、前歯である犬歯や切歯にも虫歯が存在していました。

同じ時期にヨーロッパを中心に生息していたネアンデルタール人からも歯周病の痕跡が見つかっています。特にフランスのラ・シャペローサン遺跡で発見された約6万年前の化石人骨は、50~60歳の高齢者のものであり、歯周病が原因でほとんどの歯が抜け落ちていたことがわかっています。実は、太古の人類では歯周病の発生率が現代人よりも高かった可能性さえ指摘されています。

これらの事実から、私たちが歯痛に悩むのは人類の歴史のはるか昔から続いていることがわかります。歯の健康状態を維持することは、私たちの生活において重要な課題であり続けてきたのです。

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はるか昔の人類

世界中の遺跡から見つかる歯には、楊枝を使用した縦の溝のような痕跡があります。
これは、食べかすを取り除くだけでなく、痛みを和らげるために堅く尖ったもので歯を強くこすった結果生じたものです。

2013年には、スペインの研究者がバレンシアの遺跡から出土したネアンデルタール人の歯(5万~15万年前)に注目し、「歯肉炎の痛みを緩和するために特定の植物の楊枝を使用していた」という論文を発表しました。これにより、「楊枝は一種の歯痛治療法だったのではないか」という話題が広がりました。現世人類(ホモ・サピエンス)の出現以前から、人類は歯の痛みを取り除く方法を模索してきました。しかし、最も効果的な方法は歯磨きによる虫歯予防であることに気づくまでには、長い時間がかかったということです。

《現代では考えられない風習》

昔の日本の縄文人は、にっこり笑った際に見える整った白い歯を魅力的とは感じませんでした。実際、約1万2000年から2500年前の縄文時代には、狩猟採集を営んでいた人々が、わざと健康な切歯や犬歯を抜く習慣がありました。縄文時代後期には、成人男女のほとんどが歯を抜いており、中には8本もの抜歯の痕跡がある人骨も発見されています。笑顔をすると、抜けた歯の穴が所々に見える光景は、私たちにとっては不思議に映るかもしれません。

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歯を抜く風習

縄文人にとって、頑丈で丈夫な歯は霊的な力の象徴でした。そのため、成人や結婚などの通過儀礼や、病気の治癒を祈る際に歯を抜くことが行われていたと考えられています。彼らは痛みに耐えることで霊的な力を得られると信じていたのかもしれません。

興味深いことに、さらに奇妙な人骨も見つかっています。それは、4本の前歯にフォークのような切れ込みが入っているものです。これは「叉状研歯(さじょうけんし)」と呼ばれ、集団のリーダーやシャーマンなどの「特別な役割」を持つ人々の証であったようです。なお、歯を削るために使われた道具は石器でした。どれほどの痛みを伴ったのか想像するだけで恐ろしいですよね。

《実は古代エジプトが歯磨きの聖地!》

古代エジプトのサッカラに位置する階段ピラミッドは、世界で最も古いピラミッドとして知られています。このピラミッドは紀元前2650年頃に建造され、その時のファラオであるジョセル王は、有名な大ピラミッドのクフ王よりも100年以上も前の存在でした。

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古代エジプト人の風習 

ジョセル王の統治下で活躍した高位の役人の中に、歯科医師がいた可能性があります。その人物の名前は「ヘジラ」です。この推測は、サッカラのヘジラの墓から見つかった杉のパネルに基づいています。そのパネルには、本人の姿が浮き彫りされており、「王の親友」という称号とともに、「最も優れた歯科医師」と解釈される古代エジプトの象形文字が刻まれていました。この解釈には異論も存在しますが、もしこれが正しければ、ヘジラは世界で最初の専門的な歯科医師であったと言えるでしょう。

紀元前1500年頃、エジプトでは歯磨き剤の使用に関する記録が現れました。その中でも有名なのがエーベルス・パピルスです。このパピルスは長さ20メートルもあり、700種類以上の魔術や治療薬について紹介されています。

エーベルス・パピルスによれば、粉末状の歯磨き剤は乳香、緑粘土、緑青から作られ、ペースト状のものは緑粘土、緑青、火打石の粉末、蜂蜜、ビンロウジュの実の粉末で作られるとされています。乳香は香りづけに、緑粘土や火打石の粉末は研磨剤として、緑青は殺菌作用を持ち、蜂蜜は甘みと粘着剤の役割を果たすなど、それぞれの成分に歯磨き剤としての効果が認められます。

古代エジプト人は宗教的な規則に従い、衛生に気を使っていました。神官たちは毎朝、体を洗い、口内を清潔に保つことが求められていました。この際に歯磨き剤を使用する習慣があった可能性も考えられます。

ヘロドトスの『歴史』によれば、紀元前5世紀のエジプトでは医療は目、頭、腹部、歯などの専門分野に分けられ、医師がたくさん存在していたとされています。そのため、世界で最初の歯科専門医が誕生したことは不思議ではありませんね。

《白い歯がステータスだった古代ローマ人》

古代ローマ帝国は、広大な領土を築き上げた文明であり、市民たちは公衆浴場への頻繁な訪問や、美容や衣装への気配りにも注力しました。この時代、市民たちの間では白い歯が美の条件とされていました。

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美意識が高い古代ローマ人

歯の手入れを怠ると、歯垢がたまり、歯が黄ばんでしまいます。白い歯を保つことは、一部の裕福な人々に限られていました。彼らは奴隷に歯の手入れをさせており、白い歯はステータスの象徴となりました。実際に、笑っている人を風刺する文書も残っています。

このような状況の中で、医師たちはさまざまな歯磨き剤を考案しました。例えば、焼いた動物の骨や卵の殻の灰に甘松香やミルラを混ぜたものがあります。灰には歯垢や着色汚れを除去する研磨効果があると考えられています。甘松香やミルラは漢方薬の一種であり、植物の樹脂から抽出されるもので、鎮静効果があり、心地よい香りも漂います。

初代皇帝アウグストゥスの姉である小オクタヴィアは、その美徳で称賛された女性でしたが、彼女が愛用していた歯磨き剤には塩が使用されていました。現代の歯磨き剤と共通する要素があったようです。

古代において、歯の美白に関してはいくつか疑わしい方法も存在しました。例えば、焼いた干しイチジクの粉に蜂蜜を混ぜて歯の黒ずみをこすり取る漂白剤として使用する方法がありました。また、若い女性の尿を口ですすぐことで歯が白くなると信じられていたこともありました。尿素には確かに漂白作用があるかもしれませんが…。

『博物誌』を執筆した大プリニウスは、歯を強化するために羊のしっぽについた汚物を使用したり、爪楊枝としてネズミの頭の尖った骨や満月の夜に捕まえたトカゲの前足の骨を使用することを紹介しています。これらは偉大な博物学者によって書かれたものですが、これらの方法で本当に歯が丈夫になったのかは疑問です。実際に試してみるには、かなりの勇気が必要でしょう。

《弟子の口臭くさすぎ問題》

古代インドのサンスクリット語(梵語)には、「ダンタカーシュタ」という単語が存在します。これは「ダンタ」が歯を、「カーシュタ」が木を意味し、直訳すると「歯木(しぼく)」となります。歯木は、細い棒の先端を噛んで繊維を房状に広げ、歯と舌を掃除する道具で、歯ブラシの原形とも言えるものです。

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古代インド人の風習

歯木は仏教と深い関わりを持っていました。紀元前5世紀、仏教の開祖となった釈迦(ブッダ)の周りには多くの僧侶が集まり、教団が形成されました。釈迦自身が弟子たちに説いた言葉がまとめられた仏典を「律蔵」と呼びますが、その中には歯木に関する教えが数多く含まれています。最初の記述では以下のように述べられています。

「ある時、僧侶たちは歯木を噛まず、口臭が臭かったため、世尊(釈迦)は歯木を噛むことの5つの利益を説明されました」

もし手入れを何日も怠ってしまったら、口臭はどうなるでしょうか? 想像するだけでも恐ろしいですね。そんな多くの弟子たちが口臭に悩まされていたのかもしれません。そこで、釈迦は歯木の利点として、①口臭の解消、②食べ物の味の向上、③口内の熱の取り除き、④痰の除去、⑤視力の向上という点を挙げ、歯の手入れを勧めたのです。

古代インドにおいて、「ダンタカーシュタ」として知られる歯木は、その長さにも一定の規則が存在しました。釈迦はある僧侶が長い歯木で少年僧を打つのを目撃し、歯木の長さを指で八本分までと定めました。また、ある僧侶が短い歯木を誤って飲み込んで喉を傷つけたことから、短い歯木でも指で四本分以上の長さにするよう指示しました。歯木は朝早く噛むべきであり、使用前に手をきれいに洗い、使用後は洗ってから処分することも重要でした。

さらに、古代インドの伝統医学である「アーユルヴェーダ」では、歯と舌の清潔さは健康維持のために重要視されました。この文脈において、ニームという常緑樹が歯木の素材として使用されていたことが知られています。ニームの苦い樹液には抗菌効果や抗炎症作用があり、現代でも歯の健康維持に役立つ成分として利用されています。釈迦自身もニームの歯木を使用していた可能性があります。


かなり歴史は長いですね・・・

まだまだ面白い歴史のエピソードが続きます!

続きは次の記事で!